1.イタリア労働総同盟(CGIL)とは  
 世界の労働組合運動の中で、イタリア労働総同盟(CGIL)の年金者組合(SPI)は、とりわけ世界的にも異常(アノマリーア)と言われているが、すさまじい発展を遂げて、2003年には約300万人を突破した。名称からしてCGILのSPIと強調して名乗っているように、紛れもなく本流である。他の年金者組合(CISLとUIL)も、それぞれ約200万人、45万人を組織しているから、イタリア全体で合計550万人の年金者(約25%くらい)が組織されていることになる。2010年に全日本年金者組合が約10万人(結成後20年で)を越えたが、何故これほど発展し続けているかという原点を学ばなくてはならないだろう。
 まずその前提として、その本体であるイタリア労働総同盟(550万人)は何なのか、その存在価値を説明しておかなくてはならない。
 
 CGILは、まず第一に規約第1条の定義にあるように、「生まれながら予定された統一的、民主的、長年にわたる女・男の一般的な1労働組合組織」である。つまりすべての労働者の参加をめざしているのである。そしてそれが「自由な結社(アッソシエーション)で連帯した集団の自発的保護」を守ることであり、女・男従業員、または他の直接的労働者、協同組合や自主管理形態の雇用者、類似的従業員、失業者、未就労者、または雇用前の者、女・男の年金者、女・男の高齢者を対象としている。つまり文字どおり企業の枠を超えて「CGILへの加入は自由である」ことは、産別組合への加入も自由であり、産別を越えた幹部間の人事交流も自由であり、ベースとなる基礎産別の過半数を上回ることは許されないだけである。実際にSPIの幹部会員(注・1)の経歴を見ればわかるが、まだ現役の国家公務員、機械金属労働者、建設労働者が所属しているのである。
 
 第二は、CGILが年金者組合を除いた13の大産業別労働組合であり、すべての産業を網羅し、縦系列の組織を構成している。一方、水平系列の地域組織は、21州(自治県も含む)に存在し、すべての県や郡から小さな市町村までに「広域県、市町村の地方、または地域労働評議会」を構成している。つまり約六千の労働組合の「構造」が地域に存在している。少なくとも平均して人口一千人以上の町で「地区労働評議会(カーメラ・デル・ラヴォーロ)」の所在地を市民が知っていることになる。
 なぜか?「地区労働評議会」が一方では産業別の組合事務所であると共に、INCA(総同盟救援協会)と呼ばれる協会は、CGILの外郭団体であるが、市民の相談事務所であるからである。年金などの社会保障、社会福祉、医療などの無料の援助サービスや所得税の自主申告時のサービスを提供している。詳細は別の項で説明するが、失業者、主婦、年金者、市民、イタリア在住の移民、外国人労働者、非定型労働者への情報提供もして、市民に開かれた駆け込み寺≠ノなっている。
 また,CGILばかりでなく、他のCISLやUILも組合要求の提出から妥協提案についても非組合員の参加を経て(原則として統一できない場合もあるが)、その結果の承認手続きを実施している。
 
 第三は、CGILは総同盟救援協会(INCA)の他に、「税・紛争事務所」(Caaf)「労働と外国人労働者センター(CPL/CLS)」「公務員の現役、または年金の保護、援助」「相続事務所」「損害賠償」「健康・安全部局」などの自らのサービス機能を持つ組織が存在している。 
 また、CGILの幹部学校の歴史は古く、ボローニャ県マルツァボット村を始め、現在、全国に6カ所配置されている。2002年、ロムバルディーア州CGILとミラーノ県評は、20年間書記局長を勤めたルチアーノ・ラーマの名前を冠した組合幹部養成学校も創設した。労働者の権利意識を高め、組合員教育を自らの手で担っており、ほかに、CISL(イタリア労働者組合同盟)、UIL(イタリア労働者連合)と共に、1993年に「イタリア自由時間連合」を設立して、企業内のレクリェーション・サークルや他の諸団体との経験交流を深めている。近年総同盟らしさ≠ニもいうべき、「総同盟性」を強調し、完全雇用によって自立した社会の上に自主的に主体的に対応していくことの正当性を自認し実践しようとしている。それには数≠ニいう代表制が必要となっているのはいうまでもない。
 
 第四は、CGILが多様な後見組織を建設し、しかも自立自助しながら前進していることである。筆頭は、もうすでに説明したが、総同盟救援協会(INCA)の他に、消費者・利用者の情報と保護のための非営利目的の消費者連合=iフェデルコンスマトーリ)がある。全国すべての県に自前の事務所を持ち、12万人の会員を拡大している。とりわけ、水、電気、ガス、電話の領収書問題の係争や訪問セールス、街頭販売、濫用条項、産地偽装宣伝、金融や保険の定款不履行などの市民生活に関わる問題を幅広く取り上げてキャンペーン行動を展開している。2009年11月12日に欧州連合14カ国の消費者団体が連合して設立されたが、金融や食品問題を当面の重点としている。
 借地借家人組合(SUNIA)は、約16万6千人の会員を擁し、政府・州・市町村と共同歩調を取りながら、町のさまざまな改善を組織し、高いレベルの「住まい」のために行動している。公・私の住まい建設の借地人や共同住宅の援助サービスには、公共法人への申請書の記帳(アパートの入れ替え、家族の拡大、契約の譲渡など)、賃貸料の計算、照合、改訂、追い立て等の日本で言うならば司法書士的な役割を果たしているので税控除も担当している。
 
 第五は、年金者組合から独立しているが、高齢者を中心とした「サービスの自主管理と連帯の会(アッソシェーション)」(AUSER)の非営利目的ボランティア組織で、約30万人を組織している。この会の特徴的なことは、高齢化社会を展望してより豊かな社会を実現するために「高齢者が資源だ」というモットーで、1989年に創設された。 日本では現役を引退した「第二の人生」のことは、あまり評価されていないが、イタリアでは「第三の人生」が最高の道と確信し、自らの趣味や慰安、旅行・観光も事業化し、高齢者の介護、自立できない人の世話、移民、緑化や環境保全、国際連帯活動を組織化している。
 2010年、この一年間でCGILのサービスの提供を受けた人たちは約1000万人を数えた。CGILの組合統一の構想は、まだ残念ながら実現されていないが、他の労働組合(CISLとUIL)と共同して、必ずや労働者・市民の地域支援センターの確立をめざすであろう。
 この壮大な展望の中で地域を基礎とした「社会的交渉」(注・2)が実現しつつある。2009年7月28日、CGILとCGIL・SPIとの合意で設立された「地域の社会的交渉監視所」(注・3)がその役割を果たそうとしている。その上ではSPI・CGILの役割が決定的に重要となっている。
 現役労働組合の内容については資料で紹介するが、イタリア労働総同盟(CGIL)は、産業の枠を超えて幹部を交代させたり、任務を代えたりしながら血統(レジスタンスから生まれた伝統)を守っている。もはや革命≠フ時代は遠過去となり、不透明な時代から新しい時代の幕開けが始まろうとしている一刻も早く。地球の環境を守ることにある。
 SPI・CGILの二代目の女子書記局長カルラ・カントーネが再選されてたが、ついに2010年、CGILの書記局長にプリーマ・ドンナのスザンナ・カムッソ(女子)が選出された。今やヨーロッパではフィフティ・フィフティ(50対50)の男女比率化が現実のものとなりそうである。
 
(注・1)CGILの幹部会員は、全員で147名であり、うちSPIは、22名で約5%を占めている。実質的な組合員率を反映しているようである。
CGILのテーマ分野は、次の通り。
(1) 環境の地域                     
(2) ストライキ権                    
(3) 障がい者                      
(4) 教育の研究                     
(5) 司法                        
(6) 移民                        
(7) 合法性・安全                    
(8) 南部                        
(9) 新しい権利(新しい労働のアイデンティティ      
(10)機会均等 18)制度改革              
(11)青年政策                      
(12)労働政策
(13)経済政策 
(14)ヨーロッパ政策
(15)国際政策
(16)社会保障  
(17)ネットワーク第三セクター
(18)制度改革
(19)市民サービス 
(20)生産部門
(21)公共部門
(22)健康・安全      
(23)福祉(Weelare)
 
(注・2)「社会的交渉」とは、20州のすべての地域が「社会的交渉」の政策大綱を提出し、協定を調印しようとするものである。項目は次の通り。
(1) 当事者と過程との関係
(2) 参加と積極的な市民の政策
(3) 予算政策 
(4) 発展政策
(5) 社会的医療と福祉政策
(6) 所得の地方政策
(7) 労働の社会政策
(8) 反差別、平等の行動
(9) 地域の住まい政策
(10) 幼児・教育政策
(11)社会的、安全・文化政策
(注・3) 「地域の社会的交渉監視所」とは、CGILによって設立された組織である。委員は12名で任務は「全国社会的交渉監視所」の活動を方針化し、組織することであり、他の州の社会的交渉監視所(Ocs)やその他の諸組織との活動を推進する。


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